書くとすれば、
限りなく悲恋に近い長編。
戦地へ赴く前に人肌を求めるのは、
彼にとって或る種の儀式だと思っていた。
睦言の一つも無く、
強引に奪われた温もりの代償に、
華々しい戦果を挙げた。
部屋に入るなり、
扉に背を押し当てられ、
眩暈がするような深いくちづけに、
翻弄された。
襟元をはだける手袋(グローヴ)に狼狽したが、
容易く往なされ、
その場で事に及んだ。
たった一枚の薄い隔てが、
尚更羞恥心を煽り、
手の甲を噛んで凌ごうとした。
その様が気に入らなかったのか、
強い力で腕を掴むと、
零れる吐息を唇で塞いだ。
激情にのまれ、
堪らず床に爪立てると、
指先を絡め、
そっと拾い上げられた。
遠のく意識の中で、
もうお終いにしなければと、
涙が伝うのを感じた。
あるいは、
いつか形になるかもしれない、
そんな妄想。
二十歳を過ぎた頃から吸血の衝動を抑制できなくなったルキアーノは、
招かれた夜会で令嬢達の柔肌に牙を立てるようになる。
催淫効果も相俟って彼女達と関係を持つが、
処女の生き血以外は受け付けず、
一夜限りの情事に終始した。
ある夜、
分家から戻ったヴァインベルグの四男に見咎められた事がきっかけで、
少年は彼の秘密を知ることになる。
ジノは、
二度と女性達を襲わないと約束すれば、
表沙汰にしないと取引を持ち出す。
ルキアーノは、
生命を繋ぐために、
ジノの血だけを飲むことが許された。