たとえば、こんな出会い。
―――わたしを かってくださいませんか。
朝まだきの公園を行き過ぎようとして、
不意に声を掛けられた。
咥えていた煙草を指に挟んで肩越しに振り返り、
戸惑い気味な視線を向ける相手に一瞥を与えると、
また直ぐに歩き始めた。
猫脚のカウチに掛けると、
隠しから取り出した新しい煙草に火を点けた。
少年は指示されたとおり上着を脱いだが、
シャツの前閉じに掛けた指が震えていた。
一条の紫煙が焦らすようにたなびき、
目の前で徐々に白皙の素肌が露わになっていった。
煙草を手にしたまま立ち上がると、
身頃を大きく開いて検分し、
背を向けさせた弾みに、
着ていたそれを滑り落とした。
浴室の場所を教えると、
少年はか細い声で返事をした。
「服はクローゼットの中のものを好きに使え。
昼前に仕立て屋を呼んでやるから、それまでには起きろ。
敷地内なら自由に出歩いて構わん。
食事は此処へ運ばせる。アレルギーがあるなら、」
「あの まってください。」
「まだ話の途中だ。」
「でも……」
「何だ?」
不愉快そうな物言いに、
少年は口篭った。
「わたしを かってくださるのでは なかったのですか?」
くすりと鼻先で笑うと、
煙草の火を消して、
上目遣いに伺う彼に告げた。
「飼ってやろう。」
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