たとえば、こんな出会い。
―――わたしを かってくださいませんか。
朝まだきの公園を行き過ぎようとして、
不意に声を掛けられた。
咥えていた煙草を指に挟んで肩越しに振り返り、
戸惑い気味な視線を向ける相手に一瞥を与えると、
また直ぐに歩き始めた。
猫脚のカウチに掛けると、
隠しから取り出した新しい煙草に火を点けた。
少年は指示されたとおり上着を脱いだが、
シャツの前閉じに掛けた指が震えていた。
一条の紫煙が焦らすようにたなびき、
目の前で徐々に白皙の素肌が露わになっていった。
煙草を手にしたまま立ち上がると、
身頃を大きく開いて検分し、
背を向けさせた弾みに、
着ていたそれを滑り落とした。
浴室の場所を教えると、
少年はか細い声で返事をした。
「服はクローゼットの中のものを好きに使え。
昼前に仕立て屋を呼んでやるから、それまでには起きろ。
敷地内なら自由に出歩いて構わん。
食事は此処へ運ばせる。アレルギーがあるなら、」
「あの まってください。」
「まだ話の途中だ。」
「でも……」
「何だ?」
不愉快そうな物言いに、
少年は口篭った。
「わたしを かってくださるのでは なかったのですか?」
くすりと鼻先で笑うと、
煙草の火を消して、
上目遣いに伺う彼に告げた。
「飼ってやろう。」
書くとすれば、
限りなく悲恋に近い長編。
戦地へ赴く前に人肌を求めるのは、
彼にとって或る種の儀式だと思っていた。
睦言の一つも無く、
強引に奪われた温もりの代償に、
華々しい戦果を挙げた。
部屋に入るなり、
扉に背を押し当てられ、
眩暈がするような深いくちづけに、
翻弄された。
襟元をはだける手袋(グローヴ)に狼狽したが、
容易く往なされ、
その場で事に及んだ。
たった一枚の薄い隔てが、
尚更羞恥心を煽り、
手の甲を噛んで凌ごうとした。
その様が気に入らなかったのか、
強い力で腕を掴むと、
零れる吐息を唇で塞いだ。
激情にのまれ、
堪らず床に爪立てると、
指先を絡め、
そっと拾い上げられた。
遠のく意識の中で、
もうお終いにしなければと、
涙が伝うのを感じた。
あるいは、
いつか形になるかもしれない、
そんな妄想。
二十歳を過ぎた頃から吸血の衝動を抑制できなくなったルキアーノは、
招かれた夜会で令嬢達の柔肌に牙を立てるようになる。
催淫効果も相俟って彼女達と関係を持つが、
処女の生き血以外は受け付けず、
一夜限りの情事に終始した。
ある夜、
分家から戻ったヴァインベルグの四男に見咎められた事がきっかけで、
少年は彼の秘密を知ることになる。
ジノは、
二度と女性達を襲わないと約束すれば、
表沙汰にしないと取引を持ち出す。
ルキアーノは、
生命を繋ぐために、
ジノの血だけを飲むことが許された。
ルル誕……『歌曲』、upしました。
あれ?
何か似たようなタイトル、あったよね……?
うん、あった。
それ、ジノ誕……。
実は、もう本当にルル誕どうしようとか、そもそもジノルルどうしようと考えながら書き始めたので・す・が!!
今回upしたところ全部、
プロットに無い話
でして!
いやもう、どう収拾つけようかと迷っていたら、タイトルどうすんの?ってことに気づいて、ああなりました。
アニャ誕もそうなのですが、何となく音楽を意識したタイトルになっていたので・・・(失笑)。
あと、ジノ誕書いたときに迷って選ばなかった場面も拾っておきたくて、『組曲』のバージョン違い的な位置づけになりました。
今回は手袋以下ををこちらで使ってみました。
『組曲』を連想させるシーンがこれからも少し出てきます。
ただ、10話分も書くつもりはないです。
その半分くらいかな?
トリスタンも墜落しません(笑)。
毎日の更新は難しいですが、体調が許す限り早めにup出来るといいなと思っています。
間に、もしかするとルキの方を書くかもしれませんが・・・。
何がって、ルル誕の話です。
あれからまた少しプロットの手直しをして、冒頭書き始めたんですけどね……
たぶん、6000字くらいになる(!)
ので、
今日中とか、無理でした。。。
いや、忘れてたのがいけないんですけど。
どうせなら、ちゃんと納得できるものを書こうと思います。
この次は『Pietà』の予定なので、ジノルルで糖度を!